「ヘテロゲニア リンギスティコ」。理解にかなり頭を使う異世界言語探求マンガ

書店で見かけて、気になって買いました。あまりにも「ダンジョン飯」すぎるカバーデザインだけど、同じKADOKAWAだから大丈夫…なのか??

架空世界の人間の言語学者が、魔界に棲むワーウルフ(人狼)やリザードマン(トカゲ人間)などの言語の調査に向かうというのが、本書のテーマです。異種族の身体的特徴から認知やコミュニケーションの特徴、そして言語の成り立ちなどが設定され、それを探求していくのが興味深い。

モンスターの「食べ物」としての特徴が細かく設定された「ダンジョン飯」と通底するノリを感じますが、世界観の作り込みの緻密さ、深さは、本作「ヘテロゲニア リンギスティコ」の方がかなり果てしなくやってしまっている感じです。例えばワーウルフは息を吸いながら言語を発する、液状の身体を持つスライムは自在に分離・結合でき、その際に記憶や人格が混ざる、などなど…。

とにかく情報量が多いうえに人間界の常識とは異なる事象が次々と起こるため、「ダンジョン飯」の食事シーンのように「うまそう」「まずそう」とかでさらっとは読み流せません。ひとエピソードごとに若き言語学者ハカバ君の体当たりのトライを見て、状況を把握し、理解したうえで「なるほど面白い!」という感想に至る必要があるので、なかなか頭を使うマンガです。

なので、疲れているときにサラッと読める感じではないんですが、脳のふだん使わない場所を刺激したいときには「人狼とクラーケンの商談のしかた」などを本書で読むのも一興かなと思います。

ちなみに本作ではWebでも読めるようです。公開中の10話までが、コミックス1巻にも収録されていました。

「ヘテロゲニア リンギスティコ ~異種族言語学入門~」各話一覧|ヤングエースUP – 無料で漫画が読めるWebコミックサイト

「言葉にできる」は武器になる(フンワリとした感想)

最近、目についた「文章術」の本を何冊か読んでいました。この手の本は、だいたい以下の3種類に分類できるようです。

1.ロジカルシンキング&ライティング
データの整理や分析に必要になる、論理的な思考と記述のフレームワーク。マーケターやアナリスト向け。

2.クリエイティブ
ロジックだけでは到達できないアイデアを生み出すためのノウハウと表現術。コピーライターや広告宣伝担当者、プランナーなど向け。

3.文章の表現術、Tips
「思考」のレベルには深入りせず、伝えるべき内容が既にある場合の読みやすさや正確さを重視した文章表現のハウツー。記者やブロガー向け。

一度見たら忘れられないタイトルがいい。クリエイティブのための丁寧な解説書

まず取り上げる梅田悟司氏の「『言葉にできる』は武器になる」は、上記の分類でいうと2番目です。仕事の文書作成で悩む人に直接答えを教えるような内容ではないけれど、自分の言葉が伝えたいことをうまく表現できていない気がする、自分の内面にあるものをもっとうまく伝えたい、相手の心に響かせたい、という人向けです。

本書の朴訥で力強い書名は一度目にしたら忘れられず、とても気になっていました。「武器」うんぬん言って思考メソッドを売る本は瀧本哲史氏のシリーズはじめいろいろと出ていますが、本書の「武器になる」のニュアンスはほかの本ほどトゲトゲしていた感じではない、ちょっと丸っこい感じがします。

外に向かう言葉を生み出すには『内なる言葉』を磨く必要がる」というテーマのもと、本書では内なる言葉の「解像度を上げる」思考術と、「外に向かう言葉」としての表現術が、具体的な手法として解説されます。

思考術の基本は、頭の中にあるものを「紙に書き出し」て「寝かせる」というもの。本書も大筋では古今東西の発想術や思考術本が言っていることと変わらず、これが王道なんだなという印象です。

そのうえで本書の特徴的な点は、「書いて寝かせる」だけでなくロジカルシンキングの手法も取り入れつつ、もう少し具体的なやり方を加えている点です。私が記憶している限り「書いて寝かせろ。そのうち発酵して何か出てくる」と書いている本がそれ以上の具体的な手法にまで踏み込む例は少なく、クリエイティブな思考術や発想を身に付けたい読者に優しいです。

また、本書の「内なる言葉の解像度を上げる」という表現が秀逸です。発想術みたいなものだと「アイデアが出る/出ない」で結果はゼロかイチかとなってしまいがちですが、アイデアが降ってくる前の段階、何かの兆候が見え…そうだぐらいの段階も「解像度が上がった」と言えるでしょうし、段階的な進化を自覚しながら発想の過程に取り組んでいけるでしょう、たぶん。

本書で最初に出てくる「書き出した言葉」の例は、やや心配になるほどに俗で、捻りがありません。例えば「同期で一番になる」とか「英語やらなきゃ」とか。でも、これを整理し、著者が「T字型思考法」と名付けた手法を用いて自分に問いかけ、寝かせて客観視することで、内なる言葉の解像度が上っていくと言います。

ただ、上記の例のような俗な言葉たちがどう磨かれていくのか、そのあとの例に繋がってないところはちょっと不満に感じました。その後の具体的に言葉にする段階では、もうかなり上手い表現が例として出てくるんですけど、「同期で一番になる」レベルの煩悩から解像度をどれくらい上げていけばいいのか、ちょっと具体的なイメージが掴めませんでした。

借り物の言葉ばかりじゃつまらない、という人に

本書の最後で、著者は執筆の動機を次のように書いています。周囲の多くの若い仲間たちは若いからといって考えが浅いということはないが、考えることを言語化できず、歯がゆさを感じている様子が見て取れる、と。

今の世の中、SNSには紋切り型の表現が溢れており、無用な摩擦を回避しうわべだけの共感や同調を示すには、それら借り物の言葉が便利です。しかし、それだけでは満たされないと感じる人が多いのでしょう。本書はかなり売れていると思いますが、内なる言葉と向き合いたい、思いや考えをもっとうまく伝えたいと考える人がそれだけ多いのであれば、頼もしいことだと思います。